牛の嫁入り

昔、あるところに、母娘二人で暮らしている家がありました。

その家の娘は、20歳を過ぎても家にいるばかりで、
母親は「いつになったらお嫁に行くのやら・・・」と心配しておりました。

そこで母親は、運命を見てくれるという和尚のところへ行ってみることにしました。

ところが、和尚は、母親があまりにも美しいので、
娘も美しいに違いない、自分の嫁にしようと思い、こう言いました。

「あなたの娘の命はあとわずかです。しかし、ここに住めば私の経で命を延ばすことができる。」

苦渋の決断を迫られた母親は、一緒に暮らせなくても娘が生きていればいいと思い、娘を預けることを約束しました。

和尚は規則で嫁を貰うことは出来ないので、人に見られてしまわないようにと、
「箱を持たせてやるから、そこに娘を入れなさい。」といいました。

家に帰って娘を箱に入れると、和尚の使いの男二人が運んでいきました。
使いの者たちが、帰る途中、疲れたので一休みして、酒をちびちび飲んでいるうちにすっかり気持ちよくなって寝てしまいました。

そこに通りかかったお侍様が、大きな箱があるので覗いてみると、なんと、綺麗な娘が入っているではありませんか。

娘が悲しい顔をしていたので、これは何かあると思い、娘を箱から出し、かわりに子牛をいれておきました。

眠りから覚めた使いの者たちは、箱をかついで急いで寺へと戻りました。
待ちかねていた和尚は、戻ってきた者たちにたらふくご馳走を食べさせ、箱をあけました。
すると中には子牛が入っているではありませんか。

かんかんに怒った和尚は、「子牛などいらん!とっとと返してこい!!」と怒鳴りました。

一人寂しく家にたたずんでいた母親のところに箱が帰ってきました。なんと嬉しいことか、と思い、箱をあけてみると、中には子牛が入っていました。

しかし、母親は、確かにこの箱に娘を入れたのだから、娘は子牛になってしまったのだ、と思い、大切に育てることにしました。

母親は、あるとき娘(子牛)に芝居を見せてやろうと、芝居見物に出かけました。
するとそこには、立派な侍と結婚した本当の娘も来ていました。娘が母親を見つけると、「お母さん。私です。」といいました。

母親はしばらくきょとんとしていましたが、娘だということがわかると、とたんに顔を崩しました。

娘はこれまでのいきさつを母親に詳しく話すと、自分たちの家に母親を呼び寄せ、幸せに暮らしたそうです。