星になった兄弟

むかし、ある村に、兄弟二人と母親だけのまずしい家がありました。
母親は、朝から晩まで休むことなく働いて二人の子供を育てていました。

弟は、そんな暮らしを少しでも楽にしようと、朝早くから起きて、ご飯の仕度や畑仕事の手伝いをする働き者。
けれども、兄は、反対に遊び歩いてばかりの大なまけ。

「一緒に働いたら、おかあもすこしはらくできるのに・・・」という弟に、兄は「うるさい!いくら働いても、この暮らしがらくになるものか!」と目を吊り上げて怒鳴るばかり。

ある年の暮、それまで元気にしていた母親が突然ぽっくりと死んでしまいました。
弟は、突然のことに「おかあ、おかあー・・・」と一日中泣いておりました。

ある日のこと、兄弟で母親のお墓参りに行き、おかあの前で手を合わせていると、一人のまずしい身なりのおばあが、いつの間にか目の前に立っていました。

おばあは泣きはらした顔をしている弟に「何でそんなに泣いているさね?」とやさしく聞きました。
弟は、おばあのやさしい顔が死んだ母親に似ているような気がして、素直にわけを話しました。

おばあはそれを聞いて、「それは気のどくなことを・・・ だけど、人はいつかかならず死ぬもの、泣いてばかりいては、死んだおかあもうかばれないよ。」と弟にいいました。
でも弟は、「それはわかっています。でも、一度だけ、せめて一目だけでも会うことができたら・・・」といいます。

それを聞いたおばあは、「わかった。おばあがなんとかしよう、しっかりつかまえとけよー。」といい、兄弟の着物の襟をつかむと、次の瞬間にはもう、三人は大きな川の前にいました。

おばあは、突然のことにあわてふためいている兄にはかまうことなく、「そこに船がある。兄弟ふたりで力をあわせて船を漕いで、向こう岸についたらおかあに会うことができるはず。でも、ひとりの力では絶対に無理だ、かならず力をあわせて漕ぐんだよ。」というと、ひょいと船に乗り込みました。

弟と、「ここにいるよりは・・・」としぶしぶ乗った兄は漕ぎ始めましたが、川の流れは見た目よりも速く、思うようには進みません。

そのうち漕ぐのに飽きた兄は、「やめた、やめた。向こう岸になんみえないじゃないか。それに、死んだ人間になんか会えるもんか。」といってごろんとふてねしてしまいました。

そんな兄に対し弟は、兄の分まで一生懸命腕もちぎれんばかりに漕ぎ続けましたが、やはり船はどんどん流され、やがて大きな滝の真上まできてしまいました。

「滝に落ちる!助けてー!」と叫んだ瞬間、おばあは弟を抱えると、ふわっと空中に浮き上がりました。

「おまえは、たいへんりっぱな親思いだ。天にのぼって、世の中の目当ての星になりなさい。」
おばあはそういうと、どんどん天を目指してきらめく星の中を昇っていきました。

ふてねしていた兄は、星が流れ落ちる滝に船と一緒に落ちていきました。


こうして、母思いの弟は北の夜空の目当て、北極星になって、天の中心に輝いているのです。

滝に落ちていった兄はというと、小さな星屑になって、いまでも天の川をさまよっているそうな。