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八重山上布…南国の太陽と海、そして人が育んだ伝統織物。
白地に茶絣が特色でその清楚な美しさを誇っている。

中村さんの実家、池城家は曽祖父の時代から八重山上布を織り続けており、 曽祖父は琉球王朝時代人頭税として八重山上布を納め ていた。
祖父の池城安布、父安裕と代々受け継がれ中村さんはその4代目に当たる。
父の安裕さんは沖縄県の無形文化財に指定されるほどの技術者。
戦後はいち早く八重山上布の復活に取り組み、与那国・小浜・竹富・石垣をまわっては人を集めて織子の養成に力をいれていた。

  なかむら・すみこ
    1937年 沖縄県生まれ
    1974年 「沖縄伝統工芸公募展」入選
    1981年 「沖展」入選
    1991年 沖縄県指定無形文化財 
        「八重山上布」の保持者に認定

4代目となったきっかけ

中村さんは物心ついた頃から父の手伝いをするようになり、その当時は手伝うのが嫌でたまらなかったそうだが、 小学校の頃には機織も始め、中学校に通うころには一人前に上布を織っていた。
『その時代は、学校を休むと「おりこうさんだねぇ。」と褒められたもんだよ…』と笑いながら話す中村さん。子供も大切な働き手の一人、忙しいときには皆学校を休んで家業を手伝ったそうだ。

仕事に対してとても厳しい父。
その跡を継ぐとなるとなかなか決心がつかなかったが ある日、震える手で細かい絵図を懸命に描いている姿を見て、自分が後継者になろうと決心する。

写真01

父の写真
父の安裕さんは73歳まで現役で
八重山上布作りに携わってきた
八重山上布をつくるには 八重山上布は苧麻(ちょま)と呼ばれる麻を原料とする織物である。

①原材料

苧麻が伸びて丈1.5m前後で根元が緑から茶色に変わった頃に刈り取る。皮をはぎ天日で乾燥してから 「ブービキ」と呼ばれる繊維を取り出す作業を行う。その繊維を指で細かく裂き、それらを結んで糸を作る。
一反の着尺を作るために一ヶ月あまりかかるといわれ細かい上にかなり根気のいる作業。

②染料

「紅露(くーる)」ヤマイモ科の植物。黒い紅露をナタで切ると中は真っ赤。 流れ出る液体は血液のような感じで灰汁も強く、手につくとかぶれてしまう。 この汁を天日で自然乾燥させて、半分ほどに濃縮して染料として使用。
この染料を竹の櫛で差し込むように刷り込んで糸を染めていく。
これを「捺染(なっせん)」という。

③機織

染色が終わると糸を「綾頭(つぶる)」につけたまま自然乾燥させた後、八重山式高機で製織する。この高機は綾頭と地頭に別れているほか、重りで経糸のはりを調整、高機のため経絣のずれが少ない。
④天日乾燥

織りあがった布は一日8時間の約10日間天日乾燥。八重山はスコールのような雨が降るため、天日干しが始まるといつでも空とにらめっこ…気が抜けない。天日乾燥の善し悪しが八重山上布の品質を左右。この工程で染料の色を十分に発色させる。
⑤海さらし

出来上がった布は色止めのために海中で5時間ぐらいさらす。その後、海水を十分に水洗い。太陽と海水の恵みを受けて染料は落ち着き、色柄はより鮮明になり、汚れは取れて真っ白になる。
苧麻1苧麻2苧麻3

八重山上布をつくるのは、気が遠くなるような作業…後継者がなかなかできないのも一つ一つが手作業で、そのどれも気が抜けないということがあるのかもしれない。
中村さんに「大変ではないですか?」と聞くと、「いやぁ、大変ではないよ。小さいときからやっているからねぇ、でも今の若い人には耐えられないかもしれないねぇ。」と話す。
中村さんはいつも頭の中は上布のことでいっぱいの様子。上布一反を織り上げるには、約2ヶ月あまりはかかるという。
量産はできない、だから一糸一糸に思いを込めて丁寧に織り上げる中村さんの八重山上布は、気品の中にも優しさが漂う。中村さんは、今にして思えば父が生きているときにもっとたくさんの技法を教えてもらえばよかったと後悔することもあるそうだ。父が書き残した図案を見てもわからず、一人で思案することもしばしば。それでもアイデアを凝らして絵柄も50以上に増やす。
師もいない今、この伝統ある仕事を誇りに、今もなおこつこつとがんばる中村さんは笑顔がひときわ光り輝く。
儲けは二の次、一番はこの伝統を絶やさないこと。

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 苧麻(ちょま)を紡ぐ糸車  方言で『ピツキー』と呼ばれる道具
 で糸を通し機を織っていく
 素晴らしい模様の反物がガラスケー
 スの中に ならぶ
写真08 写真09 写真10
 中村さんがつくる最高級の八重山上
 布は数多くの賞を受賞している
 一番手前の機織機は祖父の代から三
 代にわたり使われている
 中村さんの工場のある通り

掲載日 2008年6月7日   
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